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【読み物】弥涼暮れゆく空宙の向こうに・3 byすずきささ

  1. 2014.05.22(木) _06:38:18
  2. 小説
  3.  トラックバック:0
  4.  コメント:4





ナベリウス凍土の雪原をひた走る。

走って、走って、走って――……。


ふっと、風景が変わった。


それでも私は走り続ける。

ここはよく知っている場所だ。


背中のランドセルの中で、たくさんの教科書やノートが揺れて重い音を立てる。

綺麗に舗装された道。

信号に合わせて行き交う車。

でこぼこと立ち並ぶたくさんのビル、虹の架かる青い空。


この先の交差点をふたつ越えて、角を曲がれば私の住むマンションだ。


「すずー!待ってぇ!」


後ろから声が掛る。

速度を緩めて振り返ると、綺麗なピンク色の髪を揺らして、背の小さい女の子が必死で私を追いかけて来ていた。


「燈月(ほたる)!頑張って!」

「むりだよー!」


燈月は空を仰ぐと、諦めてとぼとぼ歩きだす。

私は逸る心を押さえて引き返した。


「大丈夫?」

「だいじょぶ、じゃない。ぜん、ぜん……ぜぇ、ぜぇ。わた、し。すずみたいに速く走れないってば!」

「だって早く帰りたい」

「逃げないよー。すずのお父さんもお母さんも、私のお兄も」

「そうだけど……。じゃ、こっからは歩くよ」

「そうして……」


私は、まだ顎が上がって肩で息をしている燈月に歩調を合わせて歩き出す。


アークスである父と母が、長期間の大きな討伐作戦から帰って来たとメールがあった。

そしてそのメールには、私の父と母に憧れてアークスを志していた燈月のお兄さんが、ついに夢を叶えてアークスとなり一緒に返って来た事も付け加えられていた。


早く会いたかった。

お父さんとお母さんと、燈月のお兄さんに。


「そういえばね。お姉もうちに来るって。これから行くよってメール来てた」


燈月の言葉に胸がチクッとする。

燈月にはお兄さんしかいない。

だから、燈月のいう「お姉」っていうのは、お兄さんの大切な人――。


「お姉ね、私たちに渡したいものがあるんだって。絶対誕生日プレゼントだよね!楽しみー」


燈月が頬を赤くして嬉しそうに微笑む。

燈月と私は誕生日が1日しか違わない。

去年も、その前の年も、お姉さんは燈月の友達だからって、私にも誕生日プレゼントを用意してくれていた。

笑顔が素敵な、優しい人。


お姉さんの事は、私も好き。

なのに、嬉しさで埋め尽くされていた心の中に、ぽっかりとほんの少しだけ、本当にほんの少しだけ、がっかりしている部分ができる。

お姉さんといる時のお兄さんはとても楽しそうで、私は話しかける事もできなくなって……。


(来て、欲しくないな……)


一瞬でもそんな風に思うそんな自分が嫌だった。




不意に、ゾクッと背中を不快な寒気が走った。


『ダメ……ダメだよ。この先は、ダメ……。この信号を、渡っちゃダメ……』


頭の中で、この先に行ってはいけないという警告がガンガン鳴り響く。

なのに私は足を止める事が出来ない。

燈月は嬉しそうにプレゼントが何なのかあれこれ推理している。

もうすぐ信号を渡り切る。


知ってる。

この先がどうなるのか。




私、知ってる――。




私の足が、歩道の端に届く。

突然、目の前のビルが大きな爆発音とともに大破して崩れ落ちた。

そう、そしてこの後はその崩れたビルの周りから……。


「なにあれ!!!」


燈月が悲鳴を上げる。

黒くて赤い気持ち悪い正体不明の存在。


ダーカー。


今なら分かる。

あれはダガンの群れだ。

無数に湧いて来るダガンに、街ゆく人々が逃げ惑う。

私は腰のカタナを抜こうと手を後ろに回した。

でも、手ごたえがない!


「?!」


そうだ、まだ私はアークスじゃないんだ!

どうしたら……!!


「燈月!走って!!一生分の本気で走って!!」


私は燈月の手を取ると自分の家に向かって駆け出した。

家に行けばお父さんとお母さんがいる!

きっと助けてくれる!


「わ!」


燈月と繋いでいた手が離れる。

私の速度に付いて来る事ができずに、燈月が思いっきり転んだからだった。


「燈月!」

「だっ、だいじょぶっ」


燈月の膝から血がにじむ。

私はすぐにランドセルを放り出し、燈月に背中を向けてしゃがんだ。


「おんぶするから!早く!」

「う、うん」


燈月は同級生で一番小さい。

私は同級生の中でも大きい方。

きっと、なんとかなる。

できる!


ダガンの群れは私たちに向かってもうすぐそこまで来ていた。


「燈月!弥涼!」


私たちの名前が呼ばれると同時に、炎の塊が飛んで来てダガンを焼き尽くした。


「大丈夫か、ふたりとも!」

「お兄ぃー!」


私の背中にしがみついた燈月が、涙声でお兄さんを呼ぶ。


「あー、間に合ってよかった。ってか、なーにおんぶされてんだよ。燈月は」


治まりゆく炎の向こうから現れたお兄さんが呆れ顔で笑う。

その笑顔が私の胸を突く。



もう見ることが叶わなかったはずの笑顔。



私は思わず大きな声でお兄さんの名前を呼びたくなった。

呼びそうになった。

なのに、お兄さんの名前が思い出せない。

名前。

お兄さんの名前は――?


「ほら、すりむいたところ見せてみな」


私がお兄さんの名前を思い出せなくて呆然としている間に、私の背中から降りた燈月が、お兄さんに傷の手当てをしてもらっていた。

緑色の優しい光が燈月のすりむいた膝を覆うと、あっという間に傷口がふさがっていった。


「よし。これで走れるな?燈月」

「うん」


燈月の頭をクシャっとなでると、お兄さんは真顔になる。


「弥涼」


お兄さんの真剣な声にハッと引きもどされた。


「燈月を頼むよ」

「うん」


私が大きく頷くと、お兄さんは武器を構えた。


「俺が道を切り開くから、ふたりで突っ切れ。シェルターまで走る!」

「あのっ」

「ん?」

「お父さんとお母さんは……」

「一番爆発の大きかった方へ向かった。シェルターで待っててっ言ってた。大丈夫だよ、おじさんとおばさんなら」

「はい」

「いくぞ!」


お兄さんは掛け声とともに再び火球を放った。

そして燃え上がる炎の間を縫って私と燈月は駆け抜ける。

お兄さんの技はダガンを一匹残らず焼き尽くす。

お兄さんが助けに来てくれた。

きっともう大丈夫。

なのに、怖い。

恐怖が消えない。


ダガンが怖いんじゃない。

この先で待っている事が怖い。


私は、この時の結末を、知っているから。





背後でもう一度大きな爆発音がした。

振り返ってみて見えたのは、業火に包まれる街。

それから、空を、地面を、覆い尽くした無数のダーカー。


「あ……」


立ち並ぶマンションには大きな亀裂が入り、みんな奇妙な方向に傾いていた。

私の左腕からはたくさんの血が流れていて、右手で押さえたところでどうにもならない。


「うそだ……」


凄惨な光景に怯んで後ずさると、カシャンと音がするものを踏みつけた。


「なに?」


足元に視線を落とす。

私が踏んだのは、アークスが使うロッド。

先の部分が粉々に砕けている。

そのすぐ傍で倒れているのは……。


嘘じゃかなかった。

夢じゃなかった。

間違いじゃなかった。


お兄さんは、もう動かなかった。

父と、母にも、もう会えなかった。



私の故郷だったアークスシップは、ダーカーによる侵略を受けて放棄されたからだ。



覚えてる。

忘れられるわけない。

君たちだけでも逃げろと知らないアークスに押し込められたキャンプシップ。

そこから見た、私たちのアークスシップがバラバラに千切れていく様を。







「あああああっ……!」


自分でもびっくりするほどの叫び声を上げて飛び起きる。

無意識で額に手を当てると、手のひらが汗でじんわりと濡れた。


「何?夢?」


夢だと分かり切っているのに、声に出して確認しなければいけないほど怖かった。

呼吸が浅い。

苦しい。


「今なら、私だってダガンを倒せるのに……」


どうしてあの時私はアークスじゃなかったんだろう。

そう思ってもどうしようもない。

夢でさえ間に合わせることができなかった。


「今なら、私も一緒に戦えるのに……」


泣くのを我慢しようとすると、余計にこみあげてくる。

悔しくて悔しくて、涙が止まらなかった。



 

【読み物】弥涼暮れゆく空宙の向こうに・1 byすずきささ
【読み物】弥涼暮れゆく空宙の向こうに・2 byすずきささ
【読み物】弥涼暮れゆく空宙の向こうに・3 byすずきささ
【読み物】弥涼暮れゆく空宙の向こうに・4 byすずきささ
 

* * * * * *



※この物語はフィクションです。

アーカムのメンバーが登場しますが、プレイ日記やチャットのログなどではありません。

でも、個々のキャラクターは押さえてるよ!



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